京都シネマスタッフのおすすめ映画レビュー★ vol.1『コーヒーをめぐる冒険』

世界には目を凝らさないと出会えないような名作映画がたくさんあります。それはミニシアター系のアート作品だったり、劇場公開されずにパッケージ化された作品(通称:DVDスルー)、あるいはまったく無名の若手監督のデビュー作品だったりします。それらの中から「この作品に出会えてよかった!」とあなたに思ってもらえるような一本が見つかりますように。
Vol.1
『コーヒーをめぐる冒険』
今回ご紹介する映画は2012年製作の「コーヒーをめぐる冒険」。日本ではちょっと馴染みの薄いドイツ映画です。

©2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved
~Story~
ドイツ、ベルリンで大学を中退してから、“考える”日々を送っている青年ニコ。考える日々というと聞こえがいいですが、つまりは自堕落な毎日ということ。ある朝、別れをつげた恋人の家でコーヒーを飲みそこねた彼は、車の免許が停止になり(飲酒運転が原因)、銀行のカードがATMに吸いこまれます。気分直しに親友マッツェと出かけることにしたものの、行く先々で彼の前にはひとクセある人々が現れて…。
©2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved
幻想的なベルリンの街にシャープなモノクロ映像とジャズがぴったりマッチして、観ている私たちもいつしか迷子になった気分で彷徨い出してしまいます。ありますよね、何をやってもまったくうまくいかない、そんなツイてない1日って。様々な人々との出会いを通して、人生の踊り場のような場所で次の一歩を踏み出せずにいたニコは戸惑いながらもあたらしい扉を開けます。最後に訪れる、まさにコーヒーのような(!)ほろ苦い味わいが不思議と心地よく、何度も見返したくなるような作品です。
©2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved
物語の中でニコはアパートの上階に住むに隣人に絡まれるのですが、この変人オヤジを演じているのがユストゥス・フォン・ドホナーニ。『ヒトラー ~最後の12日間~』(’04)、『黄金のアデーレ 名画の帰還』(’15)などで知られる名優です。その彼が出演した最新作『お名前はアドルフ?』がいよいよ京都シネマで公開。生まれてくる子供にアドルフ・ヒトラーと同じ名前をつけようとした夫婦と、なんとか彼らを思いとどまらせようとする家族や友人たちのスリリングな舌戦を描いた社会派コメディです。大論争はドイツの歴史やナチスの罪に発展していき、見ている方もハラハラドキドキ、知的な会話劇に引き込まれていきます。必見。
©2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved
そういえば『コーヒーをめぐる冒険』にも、バーで”水晶の夜事件”を語るナチス政権下を生き抜いた老人が登場しますし、ドイツでは繰り返しヒトラーやナチスによる蛮行が映画化されてきました。一見オフビートでお洒落な映画とも取れますが、根底にはしっかりとした問題意識が受け継がれているように思います。時代背景を知ってから見るとまた別の意味が浮かび上がり、映画と映画がつなぎ合わさっていく…。それもマイナー映画の楽しみ方のひとつかもしれません。
Oh Boy/2012/ドイツ映画/85分/監督:ヤン・オーレ・ゲルスター/出演:トム・シリング、マルク・ホーゼマン、ユストゥス・フォン・ドホナーニ
京都シネマで近日公開のおすすめ作品
『お名前はアドルフ?』
©2018 Constantin Film Produktion GmbH
~Story~
それは愉快な夜になるはずだった。哲学者で文学教授のステファンと妻エリザベスは、弟トーマスと恋人、幼馴染の友人で音楽家のレネを招いて自宅でディナーをすることになっていた。しかし、出産間近の恋人を持つトーマスが、生まれてくる子供の名前を“アドルフ”にすると発表したことから自体は意外な展開に。「アドルフ・ヒトラーと同じ名前を子供につけるのか?気は確かか!?」友人のレネも巻き込んだ大論争の末、家族にまつわる最大の秘密まで暴かれる。名前の話はドイツの歴史やナチスの罪に発展し、ヒートアップした夜はどこまで続く…!?
映画公式サイトより引用 【公式サイトを見る】
Der Vorname/2018/ドイツ映画/91分/監督:ゼーンケ・ヴォルトマン/出演:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、クリストフ=マリア・ヘルプスト、ユストゥス・フォン・ドホナーニ、カロリーネ・ペータース
7月10日(金)より京都シネマで公開!