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2018.5.11craftman's eye

金継ぎに誘われて垣間みる、漆の美しさと多様性の世界
修復専門家・河井菜摘さん

うつわに興味を持つと時折耳にする「金継ぎ」という言葉。

割れたうつわを漆で継ぎ、その継ぎ目を金粉や銀粉で装飾する日本独自の修理法。

単に壊れたうつわをなおすに留まらず、なおすことによって新たな価値を創出し付加する、どこか「壊れてしまったこと」すらポジティヴに捉えることができるような、この伝統工芸のことが知りたくて、鳥取・東京・京都の三拠点で漆作家、修復専門家として活躍されている河井菜摘さんを訪ねました。

 

河井さんが京都で金継ぎ、漆の教室を開講されているマンションの一室でのお話となったのですが、記者は期せずして、当初の目的であった金継ぎについての見識の深堀りというテーマを通り越え、まさに河井さん本人がおっしゃる「漆の持つ多様性」の面白さに心惹かれたのでした。

 

 

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◯ 漆との出会い

 

漆作家、ことさら河井さんの場合は「金継ぎ」というモノの修復作業に関わる手法の専門家でもあります。

まずは河井さんと漆との出会い、そして修復専門家に至るお話からお伺いしました。

 

「高校は進学校で進路を決める際、周囲は一般大学志望の人たちが多かったのですが、私はやりたいことを一般大で見つけることができませんでした。

それで自分はどういう方向に進みたいかを考えた時に、ものづくりが好きだったので美術大学を目指しました」

 

ものづくりを深く学ぶため美大の工芸科に進まれる方はたくさんいらっしゃいますが、河井さんがそこでの専攻に漆というものを選択された理由は何だったのでしょう。

記者的には工芸の中でもより専門的な分野だと思ったので、その点をお聞きしてみました。

 

「進学した京都市立芸術大学にはもちろん染織や陶芸などの科もありましたが、それらは制作過程や工程がなんとなく予想がつきやすかったです。

でも漆は制作過程が想像しにくくて、どうやっているんだろうという興味が湧きました。

大学を出てからではなかなか学びにくい技術だという考えがあったこともあり、大学で漆を学ぶ事にしました」

 

陶芸や染織などは、当然極めるには多くの知識や経験が必要ですが、原料や基本の工程のようなものは素人にも朧げながらもわかります。

それに比べて確かに漆の技術は、一般的にはわかりにくい部分があります。

 

 

◯ 美術作品から修復へ

 

大学で漆を学ばれ、それを自分の作品作りより修復の仕事に使おうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。

そこに河井さんの創作に対する考えの一端があるような気がして聞いてみました。

 

「大学で学んでいるときと卒業後しばらくは、漆を使ったオブジェなどいわゆる美術作品の作家活動をしていました。

自分がものづくりを続けることが正しい方向だと思っていたのですが、卒業後物を生み出し続けること自体に疑問が生じてきた頃に、京都の茶道具の卸会社で古い美術品の修復にあたる仕事につきました」

 

その河井さんの作家活動についての「疑問」とはいったい何だったのでしょうか

 

「例えば、漆で作品を作る時に、平面作品であれば完成イメージより大きい板から切り出すので切れ端がゴミになったり、大きい作品であればあるほど制作工程上も副産物としてゴミが生まれます。

ギャラリーで展示した後、買い手のつかなかった作品は梱包して持って帰って梱包材に包まれたまま家で眠っている。こんな「ものづくり」に少しズレを感じました。

もちろん完成した時の充実感はありますが、それは「自分」に向いている充実でした。

そのぶん、なおしの仕事は(ものをなおすことで)他の人に喜んでいただける充実だと感じたんです」

 

そうして河井さんは、「なおし」の道に本格的に入っていかれ、先述の茶道具の修復の仕事では室町時代や江戸時代の茶器や古美術の修復を手掛けられ、蒔絵の修復などにも関われたそうです。

河井さんは修復の仕事をされるうちに、独立を志して漆と蒔絵の研修所で技術を学び直し、鳥取と京都で修復の専門家として活動を始められることになります。

 

 

◯ 修復の仕事で見えた漆の多様性

 

修復の専門家として活躍されている河井さん。

その修復という仕事が、自分の作品を「新たに作る」うえで影響したことはありますか、と問いかけてみました。

記者としては、「すでに在るものの修復」が「新たに生み出す」仕事のスタンスにどう影響するか知りたかったのです。

 

「私は今はそんなに多くのものを『作って』はいないので、大きな影響というと難しいのですが、金継ぎ、修復の仕事を通じて改めて漆というものの多様性といいますか、使い方、表現の多様性を再認識したということがあります」

 

ここで、今回の取材の当初の目的、金継ぎ、修復をする人としての河井さんの仕事をフォーカスするというコンセプトから、漆の面白み、河井さんの言われる漆の持つ「多様性」の魅力の話へと移っていったのです。

 

ともあれ、それではテキスト的にテーマがあちらこちらに飛びますので、少し時間軸を前後させて修復の話を進めたいと思います。

 

 

◯ 修復は表現というよりも、診療所のような存在

 

そもそも河井さんは修復「なおし」という取り組みをどう捉えておられるのでしょう。

クリエイションなのか、本当に「修復」というひとつの行為なのかといったところです。

 

「修復は表現ではないと思っています。

いわばうつわの診療所のような。愛着のあるものが壊れた、割れた。それを直す。うつわに一番馴染む方法でそれ以上、状態が悪くならないようにする。時には壊れて直したところが逆にチャームポイントになるような、そんな行為です」

 

「逆に自分が『創造』するという意味では、もう少し歳を重ねてから別の観点でのモノづくりというものをしたいですね。

いつか暮らしに根付くようなモノづくりがしたいです。」

 

 

◯ 金継ぎは漆の面白さ、多様性を伝える伝導方法

 

河井さんはうつわ、漆器の修復家としての一面以外に、その金継ぎや漆工芸を一般の方に教える教室の運営もお仕事とされています。

河井さんにとって、そちらの「人に教える」方のお仕事に携われるコンセプトとはどんなところなのでしょうか。

 

「自分自身、漆の多面性に惹かれているので、漆の魅力や面白さをより多くの人に伝えたいという想いを持っています。

そういう意味では金継ぎでお気に入りのうつわを漆で直したいといった動機は漆の面白さを伝えるきっかけ作りにもなるし、自分でなおせると、壊れてもなおせるんだ、という大きい心構えが皆に芽生えるのもいいなと感じています。」

 

「教室にお越しいただく方は20歳代後半から70歳代後半と非常に年齢の幅が広いです。

金継ぎの漆は塗って、乾かして、研ぐという作業を繰り返しますので多少時間がかかります。

そこで現代の金継ぎには速さや気軽さを求めて化学的な接着剤を使う方法もあるのですが、生徒さんは不思議と『急いで直したい』とは仰らないんですね。

それは生徒さんだけでなく、直しをご依頼いただくお客さまも同じことが多いです」

 

つまり、教室に通われる生徒さんは、手早く直すことだけを目的に金継ぎを学ぼうと思ってはおられないんですね。

そこには直すという実際的な行為より手工業としての漆に興味を持ち、「学ぶ」姿勢が生まれているということでしょう。

 

 

◯ 身近で、そして面白い漆の使い方

 

ここまでお話を続けてきて、話題は金継ぎのことからはみだし、漆を使った加工の面白さへと移っていきました。

河井さんがまず見せてくださったのが紙コップの外側に漆を塗ったものです。

少し厚手の紙を使った何の変哲もない紙コップが革製のもののような質感に。

そして曲げわっぱの弁当箱の天蓋に麻布を貼り、そこに漆を施したもの。繊細な網目と鮮やかな漆の赤色が特徴的なもの。

確かにこれらは漆器店で見る漆器しか知らない人にとっては新鮮で斬新に映ります。

 

「まず、金継ぎから入ってもらって、『こんなところに使えるんだ、こんな使用方法があるんだ』ということに気づき、そして実際にそれを実践して作ってみて漆の魅力に引き込まれていってほしいですね」

 

「わたしは、金継ぎは家で気軽に始めやすい伝統工芸のようにと思っています」

 

傷ついたお気に入りを繕い、それをポジティブに飾り、チャームポイントに変え、さらに愛着のあるものにして第二、第三の歴史を与える。

そして、その行為から漆の多様性と魅力に気付き、どっぷりと沼にハマる。

記者がこれまでお話を聞き進め、作品をみせていただいて素直に思ったことは・・・

「漆は格好いい」

 

本気で教室の空席を聞きましたが、残念ながら(?、いや河井さん的には満員御礼のほうがいいのですが・・・)キャンセル待ちという・・・

 

記者はうつわ好きというところから入った興味ですが、またひとつ新たな世界を知る事が出来た貴重な取材でした。

 

 

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現在、河井さんに修理の依頼をするには二つの方法があります。

 

webの「お問い合わせページ」から見積り依頼

河井さんのwebサイトの「お問い合わせページ」から直して欲しいものの写真とサイズなどを送付すると追って見積りをご回答いただけます。

 

ただし共直しや漆器の修理の場合は現物を直接河井さんに見てもらっての見積りをお勧めします。

下記の東京、京都、鳥取の各スタジオで受付されています。

webサイトの「お問い合わせページ」にて、まずは訪問時間の予約を入れ、下記各スタジオに現物をお持ちください。

 

京都

京都烏丸

第2第4の金曜日と土曜日

〒604-8145 京都市中京区元竹田町639-1 友和ビルディング502号室

<阪急京都線> 烏丸駅から徒歩3分

<地下鉄烏丸線> 四条駅から徒歩3分

 

東京

東京清澄白河

第2第4の日曜日と月曜日

〒135-0023 東京都江東区平野1丁目3-14

<東京メトロ半蔵門線 大江戸線> 清澄白河駅から徒歩7分

<東京メトロ東西線> 門前仲町駅から徒歩9分

 

鳥取

鳥取関金

第1第3の木曜日と土曜日

〒682-0431 鳥取県倉吉市関金町米富303

倉吉駅から車で約50分

教室については現在キャンセル待ちです。

キャンセル待ちの状態でありますが教室の詳細は、河井さんのHPで知ることができます。

また、金継ぎや漆器の修理もこちらから相談可能です。

http://kawainatsumi.com/

 

 

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記者は必ずやってみようと思っています。

「カッコいい伝統工芸」、漆。

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