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2018.10.1craftman's eye

老舗漆器店の次世代を見据えた挑戦。
カジュアルライン、isukeにかける想い。

一見、買うのにも使うのにも敷居が高そうなイメージがある漆器。

ですが漆塗りは我が国を代表する伝統工芸のひとつとして、私たち日本人に長く親しまれ、使われ、そしてその技術も進化を遂げてきました。

外食産業が発達し、家で食事を用意して食べるという当たり前の行為が、時折、さも特別なことのようにメディア等で取り上げられる昨今、その食事に使う食器の事情にもめまぐるしい変化が起きています。

 

そんな中、京都の老舗の漆器店として、その漆器というモノの裾野を拡げようと、伝統的な手法や、それが醸し出す良さは守りつつ、より日常的にカジュアルに使える商品ライン「isuke」を展開される井助商店の沖野俊之社長に、井助商店の取り組みと、その井助商店が生み出す漆器についてお話をお伺いしました。

 

 

 

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■ 井助商店180年の歴史と、漆との関わり

 

今回、取材をさせていただく井助商店さんは、ご商売の歴史としては180年、会社の起源は江戸末期にまで遡ります。

京都の老舗の中には、古い屋号の歴史の中でご商売が変わられていたりするお店さんも多いのですが井助商店さんは、

 

「元々は漆器というプロダクトを作るのはではなく、漆塗りのための原料の漆を精製し、職人さんに売る商売からはじめました。

漆だけではなく塗料全般を売るようになり、また友禅の型染めに使う接着剤としての漆を販売していたことから型染めのための材料全般も扱うようになりました。

これらの仕事はいまでも続いています」

 

井助さんにとって漆器自体をプロデュースする仕事は、実は古くから原料としての漆を取引されていた老舗さんの比較的新しめの事業のひとつなんですね。

それでもこの事業だけでもスタートして50年近くにはなるとのことです。

 

 

 

■ 漆を取引していたお店さんがオリジナル漆器に取り組むキッカケ

 

それでは、古くから原料としての漆というものを商材とされてきた井助商店さんが、漆器としてのオリジナル商品に取り組まれ始めたキッカケにはどういったことがあったのでしょうか。

 

「原料としての漆をいろいろな地方の職人さんにお売りする中で、取引先の職人さんから京都は漆器の消費地なんだから作ったものを売るほうにも力を貸してほしいという声があってはじめました。最初は、せっかく売るんだからと『柄を桜にして作って』、とか、『この形をもうちょっと小さくして』とかいう思いついた小さなアイデアで職人さんにオーダーしはじめました」

 

最初は漆を仕入れてくれる職人さんの要望で販売するという範疇で、モノとしての漆器を扱い始めたという井助商店さんなのですが、今から7年ほど前に、ちょっとした転機が訪れます。

 

 

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■ 海外に持っていって判った漆器の新しいニーズ

 

井助商店さんがオリジナルの商品ラインを持たれるキッカケは、意外にも海外展開の機会だったそうです。

 

「今から7年ぐらい前に、京都の伝統工芸を中国・上海やフランスに持っていって紹介しようという京都市のプロジェクトがありまして、それに参加する形で、デザイナーさんや国内外のアドバイザーさんとガッツリと組んで商品開発して、それを見本市に持って行こうという機会があったんです」

 

このことがキッカケということだと、プロダクトとして本格的なオリジナルの漆器をリリースされ始めたのは7年ぐらい前と、屋号の歴史からするとかなり最近の取り組みなんですね。

 

「これが現地で好評だったんで、2年目、3年目と続けるうちにオリジナル商品の数が増えていったという感じです」

 

「うちが珍しいのは、国内の展示会に出して、そこの評判から海外進出の話があるといった流れではなくて、海外に商品を持っていく取り組みで会社としてきっちりとしたブランドができたから、国内でも展開しようということになったということですね。アルファベット表記の『isuke』のロゴを作ったのもここ最近4年前ぐらいです」

 

国内展開において伝統工芸のインバウンド需要も大きくクローズアップされる中、井助商店さんの展開は確かに異例の流れです。

沖野社長にとっては、こういう流れで新機軸の商品ラインが出来上がったことに、漆器を扱う店としての幅が広くなったという感覚なのだそうです。

 

「先日も国内の見本市に出しても、新しく出来たラインナップを面白がってくださる方もいれば、『もっと他のはないの?』ということで、前からある既存のラインの商品をお買い求めになる方もいらっしゃいます」

 

それだけ漆器の世界も、より多様化し、幅が広がったということのようですが、井助商店さんは視点が変わる海外のお客さまやマーケットを意識することによって自然とその多様性にリンクされたのでしょう。

 

 

 

■ コストのことも考えて、より日常に取り入れやすい漆器を。

 

新しい展開を考えるのと同様、やはり新しいお客さま層や市場を考えた場合、お値段的な取り入れやすさも非常に重要になります。

このあたりも井助商店さんの新しい商品ラインでは、よく考えられています。

 

「木で挽いて作るものは、形からオリジナルの商品も多いのですが、木粉と樹脂を成型して作るタイプのものなどは「ありもの」型を使用することでコストを下げています。

ただ、その型選びもデザイナーと一緒に型を選びに行ってチョイスしています。

ちょっと埋もれているものを使ってみたり、蓋付きのお椀の型を蓋をなしにして下だけ使って『湯呑』にしてみたり、というやり方で、型の使い方や色でオリジナリティーを出すようにしています」

 

「もともと、色についても、あまりいままでの漆のイメージのない黄色などを使って、色のバリエーションで新たな展開をしようと決め打ちした企画もあります」

 

「そういう商品の色彩感覚は、あまり僕らでは発想が思い浮かばないので、そこはデザイナーさんと組んで企画をしています。(バラ売りではあるのですが、)5種類ならべた時に色違いがバリエーションとしてバランスが取れて成立しているといったイメージですね」

 

しかし、こういった新しい展開も、既存の漆器ファンに提案するだけではなく、また違ったターゲットにアプローチするきっかけ作りという側面もあると沖野社長は言われます。

 

「漆器というとどちらかというと、ご年配の方のほうが詳しいと思うのですが、若い方へのアプローチでもあります。以前にうちの漆器を使いたいとおっしゃっていた若い方が、漆器を『うるしき』って呼ばれていて、最初は何のことを言われているのか判らないなんていうことがあったのですが、若い方は漆器の読み方が判らないんですね。それが僕には凄い危機感として感じられたんです」

 

「漆器屋さんの中には、木の素材のものしかやらないという所もあるし、ウレタン塗りのものはやらないというところもあります。でも井助商店は、そこにはあまりこだわりません」

 

「それでコストが下がって、面白いモノが作れて若い方に、まずはそういった手にしやすいものを使ってもらって、それで『やっぱり木のものがいいな』とか『やっぱり伝統的な漆の色合いのものがいいな』とかいうステップがあればいいと思うんですね。まったく漆器なんて知らない、興味がないってことにはしたくないんです。これは海外展開も同じ考えだったりするんです」

 

 

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■ 伝統工芸の「変わってしまう」のではなく、「変わっていく」力。

 

記者は、色々と今までgo baaanという媒体内で、モノづくりに関わる方に取材し、お話をお伺いしてきましたが、井助商店さんのように自発的に新しい展開を作ろうとか「変わろう!」「変わったこともしてみよう!」ということで、新天地を開拓されている事例がある一方で、客層が変わってしまったり、伝統的な手法が失われてしまったり、後継者の問題があったりで「変わってしまった」、「変質してしまった」という事例も見てきました。

それを考えると、自ら変化と新しい潮流を生む力を持った老舗の力は大きいのではないかと思うのです。

 

「それは、新しい商品ラインは最初からそういった部分を(コンセプトとして)持ってやっていますのでね」

 

「私たちはオリジナル商品は展開していますが自社で職人さんは抱えていないのですが、仕事を出している職人さんのところでは実際に後継者問題はあります」

 

「京都は芸術系の大学や専門的な高校も多くて、漆関係の学科には多くの学生さんがいるんですが、それを仕事としてやっていくための場所、受け入れる土壌がないという厳しい現実もあります。やはり仕事としてやるのですから報酬ということも関係してきますので」

 

これは漆器に限らず、陶芸家の知人からもよく聞く言葉です。

学校でこういった伝統工芸を、芸術のひとつとして学ぶ場合、教育機関が教えるのは技術や技法や、その分野に対する知識。

作り手としての「食って行き方」を教える訳ではないのです。

 

「だから僕ら、販売に携わる者が何ができるかっていうと、たくさん売って・・・と、いえばいやらしく聞こえるかもしれませんが、でもそうして、制作の現場を活性化させることだと思っています」

 

 

  

■ シンプルに技巧を見せるコンセプト

 

それでは井助商店さんの多様なラインナップは、どのように生まれてくるのでしょうか。

沖野社長は、商品を考える上でのシンプルさがその根源にあると話されます。

 

「あまりひとつのモノに色々な要素があってもわかりずらいので、今回は『木の良さを見せたい』とか、今回は漆器の加飾の技法である『蒔絵』の美しさを見せたいとかいう形で、(いろいろとある漆器の表現技法の中で)あまり1アイテムに要素を入れすぎないようにはしています」

 

なるほど、そうしておけば、1アイテム毎のコンセプトがわかりやすいですし、また好みの多様性にも対応できるバリエーションが生まれますね。

 

 

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■ 井助商店が、これから漆器を通して目指すところとビジョン

 

井助商店さんの「isuke」ラインは、いままでの漆商品にはないpopで新しい色合いのものが多く、沖野社長がお話されるとおり、漆器に入ってくる新しいお客さまの裾野を広げるには最適にみえます。

ただ、こうして見ていると、ただただ新しくpopなだけでなく、やはりどこか漆塗りの商品であるというシックさと落ち着きも兼ね備えているように見えます。

そのあたりのデザインバランスを沖野社長はどう捉えられているのでしょう。

 

「今、展開しているpopで明るい感じの色のアイテムも、漆でなければもっともっと明るくできると思いますが、そこはやはり『漆器』なので、『漆塗りとしてのpopで明るい色』になっていると思います。そこがまた特徴として面白いところだと思います」

 

ここのバランスは、自然と「本来の漆器を知っている方に新しい視点を提案する商品」という側面と、「漆器を知らない方に興味を持ってもらうpopさ」という多様性を生むことになっていて、非常に有意義な展開だと感じます。

 

そういった、伝統的な漆器、漆という文化を深いところで継承しつつ、かつ新しい世代には新しい展開でアプローチをされている井助商店さんのこれからのビジョンをお聞きしました。

 

「日常で使う漆器と言いましても生活習慣が変わっていますので、例えば私たちの立場では『食洗機は大丈夫か』とか言われると苦しい部分もあるんですが、そういった(手入れなどの)部分も含めて『食わず嫌い』せずに気軽に手に取ってもらえて、かつ、本物の漆の魅力が感じられる商品を提供していきたいです」

 

古き良き伝統をしっかり守りつつ、そのために常に新しいことにもしっかり取り組んでいく。

世の中の価値観と、生活様式が変わっていく中で、伝統工芸がどう変化していくべきか、変えないでいるべきかが非常に良くわかるお話でした。

 

そんな、井助商店さんの漆器については、現在展開中の情報誌go baaan160号の「お米特集」にて、「お米をもっと楽しむお椀」としてご紹介しております。

また情報誌go baaanの「情報誌としての目利き力」で、go baaanの見つけたいいモノを展開するECサイト「ゴ・バーンの目」でも、井助商店さんの漆器が購入可能です。

興味を持たれた方は、ぜひ「ゴ・バーンの目」で井助商店の漆器を手に入れて、漆のある生活を始めてみてください!

 

 

 

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<お話:株式会社 井助商店 代表取締役 沖野俊之さん>

 

 

 

 

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株式会社井助商店

〒600-8066 下京区柳馬場通五条上る柏屋町344

tel 075-361-5281 fax 075-361-5285

https://www.isuke.co.jp/

 

 

isuke

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