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2018.11.16カルチャー

家族を失った遺族を繋ぐ、優しい嘘と変化の物語
映画「鈴木家の嘘」監督・出演者インタビュー

■ 家族を失った遺族を繋ぐ、優しい嘘と変化の物語

 

自死で家族を失った遺族を描くというテーマ、しかも今作の脚本・監督を務められた野尻克己監督も実際にお兄さんを亡くされたということで、本編を見せていただくまでは、非常に重い空気を持った作品なのでは? という想像をしていた記者。

実際に本編を紐解くと、「近くて遠い存在」だったからこそ生まれる亡くなった家族への想いと、残された家族同士のさりげない等身大の関係性と優しさに満ちた温かな空気の家族ドラマだったことに驚きとともに大きな感動をおぼえました。

テーマの特異性を軽々と飛び越え、こんなハーウォーミングなストーリーに仕上げた撮影現場とはどんな雰囲気だったのか?

本作の監督、野尻克己さんと親子を演じられた原日出子さん、木竜麻生さんにお話をお伺いしました。

 

 行き場をなくした家族のエピソードの中にある「普通の家族のリアル」

 

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――テーマの重いところにちょっとした笑いがあったり、反面、時にヒリッとした空気もあって、構成のバランスの妙とキャストの皆さんの作品愛を非常に感じたのですが、原さんと木竜さんは脚本を読まれての感想はいかがでしたか。

 

原日出子さん(以下 原:敬称略)

完成した台本が来る前にプリントを綴じたもので読ませていただいたのですが、最初から完成度が高い本でした。読んだ時に『これは面白い映画になるな』と思いましたね。

木竜麻生さん(以下 木竜:敬称略)

私もワークショップに参加した際には全部読ませていただいた訳ではなくて、私が演じた富美が出てくる場面だけを読んだのですが、そこだけでも出てくる登場人物たちがとても愛おしく書かれていて、その人の後ろにあるものまで見えるような、素晴らしい脚本だなと思いました。

 

野尻克己監督(以下 野尻:敬称略)

僕は脚本は俳優とスタッフへのラブレターだと思っているので、こちらの『熱』が伝わるように一言一言気をつけて書いています。やっぱり、みなさんが『面白い』って言ってくださったのが一番嬉しかったです。

 

――やはり脚本の重要性を感じますね。でも、「面白い」とはいえ、やはりテーマが自死遺族のお話で、よくあるシチュエーションではないと思います。本当の意味での登場人物にシンクロするような共感は得にくいところを、ユーモアやお話の展開のバランスの良さで、胸を打つポイントはしっかりあって、グッと心にくるような作品になっているなと思うのですが、こういったテーマを描かれるに際して、監督自身が脚本や演出面で気をつけられた点などはありますか。

 

野尻

仰る通りで、よくある(家族の)シチュエーションではないと思います。ただ、家族を失うということに関しては、どんな家族も同じだと思います。小さく閉ざした映画にしたくはなかった。みんなに届く映画にしたいと思っていました。

 

――演じる側として原さんと木竜さんはどんなお気持ちで臨まれましたか。

 

私も病死ではありますが姉を早くに亡くしていまして、そのときの母親の様子を子供心に憶えています。子を失う母の感情とか家族を失うということを経験していたので、すごく重ねられるところはありました。今回の映画の設定のような例は、そんなに多くないのかもしれませんが、家族を亡くすということは誰にでも、どこの家族にも起こりうることなので、「想像の域」という部分はありますが、あまり違和感なく、自分の息子が死んだという感情で演じました。

 

木竜

家族がそれぞれ重たいものを背負っていて、そこの表現の大変さはみんな共通してあったのですが、それを含めて『鈴木家の一員』として現場にずっといられたので、そこにすごく助けられた部分が大きいのかなと思います。

 

――ストーリーに言及すると、今回のお話は監督の実際のご体験がベースになっているということで、劇中では木竜さんが演じられた富美の立場にあたられると思います。木竜さんが演じられた富美というキャラクターは監督から見て、いかがでしたか。

 

 生きてゆく家族を紡ぐ、家族の関係と物語

 

野尻

木竜さんの芝居は僕の想像をはみ出してくれました。妹の富美は家族には隠していることがある。本当の気持ちは家族には言えない。実は家族ってそんなものかなと僕は思っていて、日本では『家族は仲がいいもの』って社会的通念があるんですけど、(家族のありかたとして)必ずしもそうじゃなくていいんだ、っていうことを木竜さんに伝えました。そういう意味で彼女が自分自身と家族と闘っている姿を描けたかなと思っています。木竜さんには心の奥底にあるものを見つめてもらった。それはしんどい作業なのですが、俳優はその作業をすることで、役からはみだすことができると思っています。本人の正直な生き方が、富美に出ていると思います。俳優はそれでいいと思っていますし、そういう人間に愛おしさを感じます。

 

――原さんと木竜さんが本当の親子に見えるシーンがたくさんあったんですが、現場でも親子のような感じだったんですか。

 

そうですね。クランクインしたときから彼女はしばらく私の娘なんだという感じで接してました(笑)。

 

――お二人が台所で洗い物をされているシーンなどはすごく良いシーンだと思って見てました。

 

そう、そう、私も好きなシーンです。

実の娘とも洗い物をしていて『そこ、洗えてないわよ』とか言ったりするので。

母親と娘って油断していて、結構、わかり合えてるって思っていて、『お母さんは何でも判ってくれてる』って勘違いするところがあるんですよ。女同士だし。

それで雑になるというか、母親の娘に対する甘えもあるんですけど、気持ちを掬ってあげないっていうのかな、お兄ちゃんのほうにばかり気がいってしまって、妹がどんな気持ちでいるか、意識が薄れてしまうところがあって、それがこの映画はすごくリアルなんですよ。

私も息子と娘がいるので、非常によくわかるんです。どちらからも色んなクレームがくるので(笑)。両方に同じように接していても、長女は、下の子ばかり

という想いがあったり、『やっぱり一番下の男の子って特別なのよね』とか、私がことさらに息子を甘やかしているように言ってみたり。

親にはまったくそういう気持ちはないんですけど、子どもってそういう風に受け取る。自分も子どもの頃に親に対して同じような感情を抱いたことがあって、みんな、親兄弟がいるとそんなことを感じるじゃないですか。そういうのを、この作品の中に出せたらリアルでいいなと思っていて、そのへんも監督も言っていただいていて、そのリアルさが映画にあるんでしょうね。

 

――決して、(家族とは)仲がいいっていうだけじゃない、っていうリアルさをすごく感じました。

 

表面はね、仲がいいんですよ。だけどふっと相手の感情を顧みないで、厳しい言葉をかけるところなんてリアルでしょ。ある種、残酷な部分もあるけど、とてもリアルだなと思って、私は演じていました。

 

――そんな原さんは、木竜さんから見れば劇中ではお母さんであり、役者さんとしては大先輩なわけですが、原さんと共演されてみていかがでしたか。

 

木竜

クランクインの時から、原さんはもう開いた状態で私に接してくださったので、お母さんが純粋に言っていることにも、素直になれない感じとかは、安心してというか、むしろ遠慮してやるほうが失礼かなと思いましたので思い切りやらせていただきましたし、それがあったから後半のシーンでも思い切りやれたので、そこはお母さんであり大先輩である原さんには、ありがたかったと言いますかご一緒できてとてもよかったです。

台所で洗い物をしているお母さんとのシーンはリアルだと思っていて、台所仕事しながら背中越しに何か言われて答えて、みたいな感じで、あそこだけでも『家族』のある日常の姿で、監督がそのあたりを作品の中で、上手に、観ている方に『家族』を感じられるシーンを作ってくださったのですごくいいなと思いました。

 

――家族でありながらも各自に個性のある人間同士が、昏睡状態から回復して息子が死んだ記憶を失くしたお母さんのために、タイトルのテーマにもなっている『鈴木家の嘘』の『嘘』の部分を一生懸命つき通そうとして奔走するくだりは、明るくコミカルで、重くなりがちな作品テーマを柔らかくしている感じがして胸を打つところがありました。あの『嘘』の内容は、監督はどこかから着想を得て作られたのですか。

 

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 明るく優しい「鈴木家の嘘」と、それによって変わりゆく家族の絆

 

 

野尻

自死遺族の方は家族の死を隠して生きている人が多いです。近所の人から『最近、見かけないけど、息子さんはどうされているんですか』って聞かれるとする。そうすると、みなさん『いまは海外で働いています』みたいな突拍子もないことを思わず言ってしまう。なぜ嘘をつくかというと、事実を話すと大抵の聞き手は、その事実にショックを受け引いてしまう。遺族はトラウマや罪悪感があるので真実を話すことが怖い。遺族は自分が傷つかないため、その場を平穏に終わらせるために嘘をつくんです。僕はこの話を聞いて当事者だけど思わず笑ってしまったんです。悲しいけど、とても人間らしいな、と。

 

――その「外国に行っています」っていうのが今作はアルゼンチンなんですが、そのチョイスはどういった経緯ですか。

 

野尻

日本から見て地球の裏側なんで、日本人にとってファンタジーな国に思えるかなって(笑)

あと、劇中に登場する、ある動物の生息地から逆算したっていうのもあります。ウキペディアで生息地を調べたらアルゼンチンだったので。(笑)

 

――木竜さんは、亡きお兄さんへの手紙であったり、お母さんに嘘をばらすシーンなど、徐々に感情を表に出していってエモーショナルな役柄だったと思いますが演じてみていかがでしたか。

 

 

木竜

ワークショップの4日間や面接の際に重点的にやっていたのが、その手紙のシーンや兄が入っていた生命保険について話すシーンでした。ワークショップでも監督と特に丁寧にやっていたのが、先ほどの話にもあった家族とのシーンというのもあって、それがすごく良かったです。

それに私自身が家族に対して、身近な人に対して感じていること、今までどんな風に接してきたかを、全部正直に監督にお話をしていたので、大変は大変だったのですけど(物語の時系列に沿って)順番に撮っていったので、気持ちが動きながら後半に向かっていけました。(物語内で)実際にあったことを実感しながら演技できましたので、そこはすごく有り難かったです。

 

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――物語の後半、バスの中で父親(岸部一徳さん)に『2万円、早く返してね』っていうシーンも印象的でした。感情的でありながらも、こういったクスッとくすぐる存在が富美という役のファクターだったのかと思うのですが、ご本人としては役柄と近い部分などはありますか。

 

木竜

自分でとびきり明るい陽気な人間かと言われればわからないですが、明るい方だと思ってます(笑)。

スコップを持ったお父さんとバスで会う、あのバスのシーンは、おかしいですよね。「お父さんは、お兄ちゃんのことに関して何もしない!

って思っているところに、お父さんのそういう部分に触れられて、照れもあってああいう反応になったのかな、と。台詞や距離感など、すごく近くはないけど、富美としてお父さんに少し歩み寄れたという部分で、大学生の女の子とお父さんの関係が描けていていいなと思いました。

 

――まだまだお話はつきませんが、最後に監督から、この記事を読んだ皆さんにメッセージをお願いします

 

野尻

人生では後悔や罪悪感を感じる出来事ってあると思うのですが、それを無理に消す必要もないんじゃないか、ということですね。それは決して消えないものなんで。家族って生きてても死んでても自分の肉体に宿っていると思うんです。だから、家族ってすごく厄介だなって思うんです。

でも残された家族はご飯は食べなければいけないし、洗濯もしなければならない。生きていかなければいけないんです。家族っていう厄介なモノを背負うのを無理にやめようとするとそれはそれで疲れる。実際背負ってみるとちょっと重いだけで、そんなに苦じゃないかもしれない。だから家族が厄介って言っても、長い人生の中で一つ大きなものを受け入れることにした『前向きな映画』になっていると思います。

 

――「家族の死

をテーマにした映画でありながら、全体を通して何か明るく、人を亡くした悲しみでばかりではなく、亡くなった方と家族、そして残された家族同士の触れ合いが胸を打つハートフルな作品に仕上がっている要因が、最後の野尻監督のお言葉にあるような気がします。

単に『行き場をなくした家族の稀なお話』ではなく、あなたの大切な家族を想い直すいいきっかけになるような作品だと感じました。

そんな『鈴木家の嘘』は、1116日(金)より、京都ではMOVIX京都にて上映予定です。

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